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研究内容Research

ウイルスはタンパク質の殻と核酸から構成される非常にシンプルで微小な構造体です。そんな小さな存在であるウイルスですが、時にはパンデミックを引き起こし、世界を大混乱に陥れるほどの強大な影響力を発揮することがあります。分子ウイルス分野では、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスといった人獣共通感染症を引き起こすウイルスに着目し、ウイルスがどのように動物からヒトへと伝播するのか、どうやって病気を起こすのかなどのメカニズムを解明すべく研究を進めています。広い視点を持って研究を進め、得られた知見を国内外の感染症対策に役立てることを目指します。

人獣共通感染症

インフルエンザウイルスの宿主への適応戦略

毎年冬に流行するインフルエンザは、高齢者や乳幼児で重症化しやすく、社会的に大きな問題となっています。また、ブタ由来のA/H1N1インフルエンザウイルスが2009年に出現したように、インフルエンザウイルスは数十年に一度、世界的大流行(パンデミック)を引き起こし、世界中で甚大な被害をもたらします。さらに、A/H5N1亜型やA/H7N9亜型といった鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染して重篤な症状を起こす例が多く報告されており、鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックの危険性も懸念されています。

インフルエンザウイルスの自然宿主はカモなどの野生の水禽です。水禽が保有しているインフルエンザウイルスが、自然宿主でない他の動物へと伝播することはまれであり、さらに伝播した先の動物間でインフルエンザウイルスの伝播は容易には起こりません。なぜならそこには、宿主の違いという大きな壁があるからです。しかし、ひとたびウイルスが、宿主の壁を乗り越え他の動物へと伝播し、さらにその動物間でも伝播できる能力を獲得すれば、瞬く間にウイルスは広がりパンデミックを引き起こす可能性が高くなります。私たちの研究室では、鳥由来のインフルエンザウイルスが、どのようにヒトに適応していくのかを調べるために、これまでにパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスや、ヒトから分離された鳥由来ウイルスを用いて、研究を進めています。また、インフルエンザウイルスの増殖メカニズムの全体像を分子レベルで理解するべく、ウイルス増殖に関わる宿主因子の同定および機能解析を行なっています。

ウイルス感染症に対するワクチンの開発研究

現行の不活化インフルエンザワクチンは免疫原性の低さに問題があります。ワクチン効果を高めるべくアジュバントの使用が検討されていますが、副反応などの安全性に懸念が残っています。私たちは、安全で効果の高いインフルエンザワクチン開発を目指して、安全性が高く、効果的な免疫賦活作用を持つ新規アジュバント候補物質の探索を試みています。またインフルエンザワクチンだけでなく、新型コロナウイルス感染症やエボラ出血熱に対するワクチンの開発に関わる研究も行なっています。

人獣共通感染症を引き起こすウイルスの研究

地球レベルでの環境変化や野生動物との生活圏域の近接化により、新興感染症となりうる人獣共通感染症が、ヒト社会に侵入する可能性は増大しています。最近の研究から、アフリカ、南米、東南アジアは人獣共通感染症が発生しやすいホットスポットである可能性が示唆されています。私たちは、アフリカ・シエラレオネ、南米・ブラジルにおける共同研究者と連携して、人獣共通感染症である各種ウイルス感染症の野生動物における流行状況を把握するために研究を進めています。

人獣共通感染症を引き起こすウイルスの研究